【医学部編入】生命科学講義・シグナル伝達② ~Gタンパク質共役型受容体~
どうもこんにちは、タマころです。
では前回の続きでGタンパク質共役型受容体について勉強しましょう。
まずこの受容体は細胞膜にあって、7回膜貫通していることがすっごい特徴です。
それゆえに、別名で7回膜貫通型受容体と呼ばれたりもします。
まあ百聞は一見に如かずということで、ネットで拾った図を以下に示します。
(http://kusuri-yakugaku.com/pharmaceutical-field/pharmacolory/receptor/membrane-receptor/gpcr/)
たしかに7回細胞膜を貫いてますね。
そして何より重要な構成要素になるのが、細胞の内側にある青いやつです。
これがGタンパク質なのです。
しかし、Gタンパク質の"G"っていったい何でしょうか?
これはあえて長くいうと、GTP結合タンパク質といいます。普段はそれを略しているわけですね。
なのでこの"G"はGTPのことなのです。
というわけで、このGTPというのが今回のシグナル伝達のキーファクターとなるんですよ。
上の図のようにGタンパク質は3量体を形成して、αβγという名のサブユニットに分けられるんですが、そのうちのαサブユニットにはGTPまたはGDPが結合しています。
GDPとはGTPのリン酸基が一個とれたものですね。念のため。
それで、普段はαサブユニットにはGDPが結合していて不活性化状態なのですが、その受容体にリガンドがくっつくとGDPが遊離して代わりにGTPが結合して活性型になります。
その結果、αサブユニットは立体構造が変化してβγサブユニットから遊離し、独り立ちします。そして、ほかの酵素の活性を修飾します。
これが、Gタンパク質共役型受容体にリガンドが結合した際に起こる一連の反応です。
では、この受容体には例えばどんな種類があるのでしょうか?
まずはじめに断っておきますが、死ぬほどたくさんあります笑
前回の記事でも言いましたが、いちばんメジャーなシグナル伝達系ですので…
その上で超代表格を挙げれば、やはりアドレナリン受容体でしょうか。
かの有名な、緊迫した場面とかで「アドレナリンが出てるから大丈夫」とかいうあれですね。
なんと困ったことに、実はアドレナリン受容体と一口でいっても、その中でいくつか種類があるのです。
たとえばα1受容体とかβ2受容体とかいったりします。なお、このαβは先ほど出てきたGタンパク質のサブユニットとは関係ありません。
それで、α1受容体がどこに発現してるとかは、それは医学部に入ってからやる内容なので編入としてはそこまで勉強しなくていいのですが、いかんせんそれぞれでGタンパク質の種類も違かったりしてそこは問われる可能性があるのです!
そうなんです!Gタンパク質にも種類があるのです!(がーん
具体的には、
Gs Gi Gq
と主に3種類あります。
それぞれを簡単に説明していきますと…
Gsのsはstimulate(刺激する)の頭文字で、興奮性のシグナル伝達を行います。
Giのiはinhibit(抑制する)の頭文字で、こちらは抑制性のシグナル伝達を行います。
Gqのqは由来不明(がーん)で、上記二つとは異なる伝達をしていきます。
じゃあそれぞれどのような機序で興奮させたり抑制させたりするのでしょうか?これについては次回説明していきます。
【医学部編入】生命科学講義・シグナル伝達① ~総論・細胞内受容体~
どうもお久しぶりです、タマころです。
いやぁ、前回の講義から1ヶ月も経ってしまった。。。猛省
さて、言い訳をしても仕方がないので早速内容に入りますが、今回からはシグナル伝達についてざっと勉強していきたいと思います。
一言でシグナル伝達と言いましても、まあ実際はいろいろありますよね。
なかなか網羅的にみていくことは難しいのですが(僕もそんなに詳しくないですし)、ここでは超有名どころといいますか、比較的試験に出そうなものだけを取り上げていきます。
まず、シグナル伝達というのは何かというと、ある細胞が外部の状況(情報)を受け取ってそれに応じて適切に反応するためのものです。
外部の情報というのは結局、細胞の周りに存在する物質を指すことになります。細胞が自身の周りにある物質に対する受容体を持っていればそれらは結合して、その結果細胞は情報をキャッチできるわけですね。
それで、受容体というのは大きく3つの種類にわけられます。それぞれ簡単な説明も付け加えました。
細胞内(核内)受容体・・・リガンドは脂溶性。多くはステロイド受容体。
Gタンパク質共役型受容体・・・いちばんメジャー。シグナル伝達とえばこれ。
チロシンキナーゼ連結型受容体・・・ほぼほぼインスリン受容体が問われる。
はい、まずこの3種類の簡単な違いをしっかり意識して、その上でステロイド=細胞内(核内)受容体!インスリン=チロシンキナーゼ受容体!と一対一対応させましょう。
ステロイドが細胞内受容体は常識だとして、インスリンがチロシンキナーゼ受容体というのは知らない人は知らないですよね。それゆえ差が出ます。
あとのリガンド・受容体の関係はたいていGタンパク質型でしょうか。
まあでも、Gタンパク質と一口で言っても種類がいくつかあるのがやっかいですね。でもその問われ方は結構ワンパターンな気がします(場合によってはマイナーな出題があるかもしれませんが、そしたらみんな分からないので結局差つきません)。
本記事ではステロイドホルモン受容体について扱って、あとの2つは次回以降に回したいと思います。
"ステロイド" 名前はよく聞くと思います。皆さんはこの単語に対してどのようなイメージを持っていますか?
おそらく、どちらかというと悪いイメージを持っている方が多いのではないでしょうか。
これは、ステロイドという薬剤に副作用が多いことに起因しますが、特に日本での嫌われようは異常です。
その昔、夜の某報道番組においてステロイドの害悪についての特集が組まれたことがあるらしく、それによって日本人のステロイドのイメージは地に落ちたということのようです。
さて、そんな話はどうでもよいのですが、そもそもステロイドという言葉がなんだか漠然とした表現ですよね。まあ一般的にはほぼ副腎皮質ホルモンのことを指します。
化学的性質としては、前述のとおりステロイドホルモンは脂溶性ということがなにより重要です。
それで、ステロイド自体には多くの作用があるのですが、薬として利用される際は主に以下の2つの作用を期待します。
抗炎症作用 と 免疫抑制作用
です。
なので、炎症を抑えるためにステロイドは使われたりするのですが、同時にそれによって免疫力は低下します。
そうすると、例えば感染症による皮膚炎にその炎症を抑えようとステロイドを使ってしまうと、その局所での免疫が低下して感染がよりひどくなる、すなわち皮膚炎がより悪化したりしてしまうんですよね。
次に、じゃあなんでこれらの作用を有するのか?ということが疑問に浮かぶでしょう。
これについては、実は僕ポリクリで皮膚科を回った際、外用ステロイドのレクチャーをしてくださった先生に直接その疑問をぶつけたことがあります。
が、その先生曰く、実はまだ詳細はわかっていない、とのことでした。
とにかく、ステロイドホルモンというのは様々な遺伝子の発現を制御することでアウトカムとしては抗炎症の効果を発揮する方向に傾くわけですが、その機序をすべて把握するのはやはり難しいようです。
では、ざっくりとした話で、どうやって細胞の遺伝子発現に働きかけるのでしょうか。
毎度ながらネット上で非常にきれいでわかりやすい図を発見したので、まずそれを貼り付けますね。
(https://blogs.yahoo.co.jp/yuyamichidori/10855535.html)
はい、まあこの図の通りです。
つまり、細胞質内にある受容体にステロイドホルモンが結合すると、その複合体は核内に移行して、その受容体そのものが転写因子となって特定の遺伝子の発現を制御します。
ここの重要なところは、「受容体そのものが転写因子となる」という点です。
受容体そのものが転写因子となる、です。大事なことなのでこれで三度言いました。
この図の流れ分かっていれば、細胞内受容体に関してはまあOKではないでしょうか。
はい、というわけで、では次回は細胞膜受容体についてお話しします。
医学部学士編入試験の志望動機等を書く上で気をつけたいこと②
では前回の続きです。
まず、どのような手順で構想を練っていくか、というところからお話しましょう。
最初にやることは、当たり前なことですが志望校のアドミッションポリシーを読むことです。
まあ編入の場合は、どの大学も多様性をうたっていて、それにプラス各大学で特色を出してる感じになります。
特色といっても、たいてい研究か地域医療のどちらかですね。
次にやることは、自分の何をアピールするか、です。
ここで気を付けなければならないのは、多くのアピールポイントを詰め込まないことです。
字数的な問題もさることながら、ポイントが定まってないと読む側は非常に理解しづらいものになってしまいます。
なので、できれば一点、多くても二点まで絞っていきましょう。
おそらく20余年生きてきた皆さんにとって、アピールできるポイントはいくつか思い浮かぶだろうと思います。
そこで、どのトピックを選んでいくかが非常に今後を左右するわけなんですが、それではその考え方・流れみたいなものを以下提示していきますね。
まずは、一番他人に自慢できることから考えてみてください。
それはスポーツや芸術など勉強と関係ないことでもいいと思います。とにかく他人が聞いておお!となることであれば何でもいいでしょう。
もしそれがとても強烈なものであれば、それを志望動機に盛り込んじゃいましょう。医師を志したきっかけがそれとは全然関係ないことであろうと、最低でも肉づけにはなるはずですので。
編入試験は、ある程度目立つということは重要になってきますから。
まあそんな"強烈"までいく人は稀でしょう。そんな方は、そのアピールポイントが医師を志す理由につながるかを考えてみてください。
つながるのであれば、それが本当の志望動機かどうか別として、それを軸に書き進めるのが吉だと考えます。
さて次に、そもそも他人に自慢できるようなものなんてないよっていう人は、ここで純粋に自分が編入を決意した理由を思い出してください。
しかし残念ながら、これはなかなか編入試験的に難しいことが多いですね。
ようは、再チャレンジだったり現職が微妙(パワハラ職場・給料が安い)だからだったり研究職に頓挫したりだとか。
そういった場合はこの段階はスキップになりますが、もしかなり全うな理由がある場合は、当然これを軸に書き進めていきましょう。
オリジナリティはあるはずですし、その熱い想いは伝わるはずです。
最後に、他人に自慢できることも全うな志望動機もないよという、おそらく一番多数派の方々はどうしていくか。
これは前回の記事で上げた各グループで考え方が変わってくるかと思うので、それぞれ分けて説明していきます。
①非生命系出身
やはり、こじつけでもいいので自分が専門でやってきたことを医学・医療を結びつけていく作業になってしまうかと思います。
でも、前回のNG集でも挙げたように、こじつけが過ぎると「はぁ?何言ってるんだこの人?」となりかねません。
ここは慎重に考えていきましょう。
例えばよくあるのは、工学系であれば心臓の生理と絡める、文系であれば地域医療と絡める、帰国子女であれば国際的な活躍、といったところでしょうか。
これであれば無理のない動機にはなるのですが、一つ難しいのは、あるあるだからこそ差別化を図るところかと思います。
これには、是非多くの時間を割いてください。
時には他人にアドバイスを求めたり、自分がなぜ編入試験を受けたいと感じたのか?という当初の想いを思い起こしたりして、オリジナリティにこだわって考えてみましょう。
そこがクリアできれば、あとはアドミッションポリシーと照らし合わせて志望動機を練り上げていけば良いです。
②生命系・非医療職出身
おそらく一番書きやすいグループです。比較的差別化も図りやすいです。
生命系といっても幅が広いのでそんなに内容が被ることもありませんし、素直に自分が勉強してきたことの中で医学・医療につながるであろうことを軸に添えて書き進めましょう。
もちろん理想は研究で扱った事項を絡めることですが、あまりつながらなさそうであれば学部生で学んだことや経験したことの中からチョイスしても悪くはないと思います。
いずれにしても、最初医療系に進まなかった人間が医者になろうと決意するんですから、何かしら想うところあったわけですよね。
③医療職出身
ここに含まれるのは主に、薬学、看護、臨床検査といったところでしょうか。なかなか曲者です。
いかんせん医師と近い立場にいるからこそ、見る側の目も厳しくなりがちだし、何よりこのグループが最も受験者層として多いことになるはずですから差別化が非常に難しいです。
最悪差別化にこだわらなくても、持ち前の知識と経験で筆記を突破して、二次試験をそつなくこなすというのもありだとは思います。
でも、合格のために万全を期すなら、やはりオリジナリティを出すに越したことはありません。
さて、この方たちで最も恐れるパターンは「君のやりたいことって、医師免許必要なの?」という言葉でしょう。
……
あああああああああああああああああああああああああああああ
もうやめて!医療職出身のライフはゼロよ!って感じですよね…
これはきっと、医療職から編入を目指す人にとって最大の悩み・最大の関門かと思われます。
実際僕は医療職でなかった人なのでそんな僕が言うのは説得力に欠けるかもしれませんが、ここで一つ言わせていただきます。
そのスキルに固執するのはやめませんか
もしその職業の経験の中でとてもオリジナリティのあるイベントに出くわしたのであれば、それをネタにして書くのは何も悪いことはないのですが。
非常に残念なことですが、だいたい薬剤師や看護師がどんな仕事をして、どんな限界やどんな不満を抱いているかというのは、試験官側は知った気になっています。
「いややつら(医師)は何もわかっていない!俺が医者になって変えてやるんだorもっと患者によりよい医療を提供するんだ」と意気込んでも、なかなか理解されづらいというのが現状かと思います。
なので、結論としてそれに固執しないという手もあるんじゃないかな、というあくまで提案です。
全く仕事と絡めてはならない、と言っているわけではありません。とにかく、20余年生きてきた中できっとimpressiveな出来事はあったはずです。
その貴重な経験を、多様性を求める大学側のアドミッションポリシーと照らし合わせて、「私を取ったら良いことあるよ」といった風にアピールしていくのが近道なのかなと思ったりします。
とはいえ、何度も言いますが僕も素人なので、最終的な判断はお任せします。
…まあというわけで、僕から伝えられることとしては以上になります。
最後に全体を通して大事なことを言うと、絶対に他人に見てもらってください。
そして、いったん寝かせてみて、数日後に読み返してみてください。読み返してみると、たいていストーリーとしておかしなところがあったりするので、そこを直してください。
そしてそれをまた誰かに見てもらってください。
余裕があれば、この作業を3回繰り返してみましょう。
そうすれば、どんな志望動機で書いたって、大抵合格レベルのものには仕上がるんではないかと思います(結論これ)。
はい、では、そんな感じです。
もし僕でよければ見ることも可能ですので、悩んでる方は是非相談どうぞ。
医学部学士編入試験の志望動機等を書く上で気をつけたいこと①
どうもこんにちは、タマころです。
twitterで予告した通り、今回は志望動機の書き方についてお話いたします。
もちろん僕自身、自分が受けるときに書いた経験があるわけですが、それに加えてこれまで2人の方にがっつりと添削やアドバイスに関わったことがあります。
それが功を奏したのかは分かりませんが、幸い2人ともすでに合格されているので、僕の考えや方針は大きく間違っていないのかなとは勝手に思っています。
ほかにも軽くチェックを頼まれたりは数人経験がありますので、それなりに見てきている方かなと。
まあとはいっても、僕も素人には変わりないので、すべてを鵜呑みにしないで参考程度にしてくださればと思います。
KALSでも添削サービスとかあるんでしょうかね?そういうのに比べればどうしても見劣りしてしまうでしょうが。
さて、本題に入ります。
まず、受験生を大きく3つの層に分けて考えたいと思います。
①非生命系出身
②生命系・非医療職出身
③医療職出身
それぞれのグループで、ふるまい方は大きくかわってきます。
端的に言って、一番志望動機を書きやすいのはおそらく②のグループになるかと思われます。
理由はなんとなくわかるでしょうが、まあ医学に近いバックグランドを持っているというのが一点、あとは③の医療職だとどうしても今就いてる仕事との比較が生じるのでそれがやりずらいというところですね。
それぞれについて書くポイントを挙げていきたいところですが、その前に、どのグループにも当てはまるであろうNG動機集を紹介していきたいと思います。
NGというか「できれば避けたほうがいい」ネタといったほうが適切かも。ちゃんとその理由も併せて載せますね。
<NG動機集>
・高校時代医学部志望だったけど学力が足りなくて行けなかったから編入で再チャレンジ
→本心ではこうだって人、実は多いんじゃないかと思います。まあ当然こんな書き方しませんよね。
・身内で病気の人がいて・・・
→これは、一般入試ではよく見かける動機ですね。NG理由は、編入のアドミッションポリシーにそぐわないからです。ただし、動機のきっかけや肉づけとして使用するのはOKです!
・現職(医療職に限らず)が向いてなくて・・・
→そんな後ろ向きな理由で志願しないでください。これも本心ではあるあるかとは思いますが。
・○○病に強い関心があって、将来は是非○○病の治療の研究を・・・
→これはNGとまでは言えないのですが、よく思わない試験官もいるということは知っておいてください。医師の仕事ってすごく幅が広いので、入学前から特定の疾患を挙げてコレだけ!と決めつけるのはとても危険なのです。
・関連の薄いスキルを持ち出して、「このスキルを医療に活かして・・・」
→これもグレーゾーンではありますが、割と見かけるNGパターンかと思います。本人はすごく活かせる!と思っていても受け取る側が魅力を感じなければむしろ逆効果です。
まあこれくらいでしょうか。ちなみに最後のNGに関しては、実体験をお話しますと僕は途中で気づいて方向転換しました。
当初僕は、漠然と「獣医学で学んだ生命に関する幅広い知識」→「医学に活かす」というストーリーを画策していたのです。
しかし、結局医師にとってみれば獣医学など医学の下位互換であって、それを活かすというのは彼らにはちょっとピンとこないということに気づきまして(特に筑波の面接時に肌で感じた)、この流れはすぐにやめました。
それで結局どうしたかというと、ちょっともったいなさはあったのですが(せっかく6年間も通ったのにね)、5・6年でやっていた研究のみを取り上げることにしたのです。
研究は、内容が人獣共通感染症であったり厳しいラボに所属していたこともあって、これはオリジナリティがあるネタだという自信があったので、「研究で得た知識と経験」→「医学に活かす」という流れにしました。
これは、僕にとっても試験官にしてみても無理のない説得力のあるものになったのではないかと思います。
つまりまとめると、なんとかして「自分のオリジナリティ」だと思える志望動機を見つけてそれを練っていく、という作業が非常に大事になるかと思われます。
というわけで次の記事で、各グループごとどうしたら説得力のあるものに仕上げられるか?ということについて、僕なりの考えにはなってしまいますが、紹介していきたいと思います。
【医学部編入】生命科学講義・細胞の死と癌化④ ~ドミネガとハプロ不全・ラウス肉腫ウイルス~
どうもこんにちは、タマころです。
前回、癌抑制遺伝子の中には「優性の性格を持つもの」も存在する、というところで終わりました。
(前提として、癌抑制遺伝子は普通、対立遺伝子の両方に変異が生じてはじめて癌促進的に作用するんでしたね)
それには異なる2つのメカニズムがあります。
それがタイトルにも書いてある
ドミナントネガティブ
ハプロ不全
です。それぞれ簡単に説明すると、
ドミナントネガティブ・・・対立遺伝子の片方に変異が生じた際に、その変異産物が正常産物に対して優性に働いて、正常な機能を阻害する現象のこと。二量体以上の多量体を形成するタンパク質でみられる。
ハプロ不全・・・正常遺伝子一つから翻訳されるタンパク量では正常に機能するには不十分で、変異型とのヘテロ接合体となることでその遺伝子の機能が正常に働かなくなる現象のこと。
人によって説明の仕方に若干の違いはあるかもしれませんが、概ねこういうことでしょう。
ドミナントネガティブは有名だと思いますが、例えば四量体を形成するタンパク質の場合、片方の遺伝子に変異が生じるとすべて正常の遺伝子産物で構成される確率が1/2×1/2×1/2×1/2=1/16 にまで低下してしまうのですね。
その結果、片方の変異で機能不全となり、優性の形質を示します。
ハプロ不全は、英語ではhaploinsufficiencyといって、"haplo-"は「単一の」という意味の接頭語で、"insufficiency"は「不十分」です。
なので、ハプロ不全とは要するに「単一では不十分」という意味です。その結果、こちらも優性になります。
普通はですね、遺伝子産物というのは十分すぎる量発現するのが世の常でして、ハプロ不全を示す遺伝子というのはそこそこレアなんですよ。
その例としては、英語版wikiにいくつか挙げられていたので、スクショを貼り付けておきます。
(https://en.m.wikipedia.org/wiki/Haploinsufficiency)
ということで、以上ドミナントネガティブとハプロ不全についてでした。
はい、ここからはオマケみたいなものなのですが、癌遺伝子つながりで「ラウス肉腫ウイルス」というものを少しだけご紹介いたします。
まあなかなかマイナーなウイルスなので、その存在だけでも知っていただければ十分です。とはいえ、このウイルスの発見者はノーベル賞を取っています。
まずイントロですが、ラウス肉腫ウイルスは、1911年にペイトン・ラウス氏によってニワトリに肉腫を生じさせる濾過性病原体として発見され、世界で最初に見つかった「がんウイルス」です。
ちなみに、最初に発見されたヒトがんウイルスは Epstein-Barr virus 通称EBウイルスです。
さて、ラウス肉腫ウイルスはHIVも属する「レトロウイルス」の一種なわけですが、このウイルスはなぜニワトリに肉腫を引き起こすのでしょうか?
研究の結果、ラウス肉腫ウイルスは癌化を強く誘導する遺伝子を持っていることが分かりました。
そして、それをsrcと名付けたのです(肉腫sarcomaに由来)。そうです、前回も名前だけ登場した癌遺伝子のsrcです!(ちなみに読み方は「サーク」)
実は、今では癌遺伝子の一つとして有名はsrcは、最初はウイルス遺伝子として発見されてのちに宿主のゲノムにも存在していることが判明したわけです。
今日では、ウイルス由来のsrcをv-src、宿主細胞側のsrcをc-srcと区別して呼んでいます。
という感じで、がんの話は以上で終わります。今回の単元は④までいっちゃいましたね、長くなってしまいました。
それでは、次回からは「シグナル伝達」について勉強していく予定です。
【医学部編入】生命科学講義・細胞の死と癌化③ ~癌遺伝子と癌抑制遺伝子~
どうもこんにちは、タマころです。
今日はがんの話をします。
内容に入る前に、まず「腫瘍」や「がん」の定義をしっかり押さえましょう。
グーグル検索すると京大の病理の講義資料と思わしPDFが引っかかったので、そちらを引用させていただきます。
https://ocw.kyoto-u.ac.jp/ja/07-faculty-of-medicine-jp/general-pathology/pdf/general_pathology09.pdf
腫瘍・・・細胞の異常によって起こる組織の異常増殖であり、組織が自律性に無目的性(無秩序性)に過剰増殖したもの
がん・・・悪性腫瘍の総称。予後不良な腫瘍で、組織を浸潤、破壊し、転移する。
さらに、がん(悪性腫瘍)は癌腫と肉腫に分けられます。漢字の「癌」は「癌腫」と同義になります。
癌腫・・・上皮性悪性腫瘍
肉腫・・・非上皮性悪性腫瘍
このあたりは言葉の定義なので、軽く知っておきましょう。
さて、今日の本題は癌遺伝子と癌抑制遺伝子です。
なお、この時の「癌」は、本来ひらがなで表す方が一般的のようですが、変換が面倒くさいのでこのまま漢字表記でいかせていただきます。
癌遺伝子 oncogene
名前の通り、発がん作用のある遺伝子のことです。
ちょっと気をつけなければいけないのが、その名称です。
癌遺伝子は、もう機能のおかしくなったものを指します。
つまり、癌遺伝子といっても元々は正常の機能をもった細胞に必須の遺伝子だったわけで、その野生型を「癌原遺伝子 proto-oncogene」と呼びます。
それで、癌原遺伝子に機能獲得型変異 gain of function変異が起きると、それが「癌遺伝子」になるわけですね。
さて、癌遺伝子にどんなものがあるかというと、代表的なものとして
sis(細胞増殖因子)
src(チロシンキナーゼ)
myc(転写因子)
ras(Gタンパク質)
なんてものがあります。
それぞれ、様々なメカニズムで癌化に導くわけですが、その細かいカスケードは特別知っておく必要はないかと思います。
出題されたとしても、誘導があってその場で考えられるようになっているはずです。
そして大事なことは、「どうやって癌原遺伝子が癌遺伝子になるか」です。
そのメカニズムは主に以下の3つがあります。
点突然変異 染色体転座 遺伝子増幅
おそらく点突然変異は身近で分かりやすいでしょう。染色体転座もまあ分かるかなと思います。
問題は「増幅」ですね。聞きなれない変異の仕方かもしれません。
増幅は、以下の図のように遺伝子のコピー数が増加してしてしまい、結果として過剰にタンパク質が発現してしまう現象です。
(http://www015.upp.so-net.ne.jp/j-hata/byouri/hatugan.html)
というわけで以上、癌遺伝子についてでした。
癌抑制遺伝子 tumor suppressor gene
こちらは反対に、普段は癌化を抑制する方向に機能していて、その機能が欠失するようなloss of function変異が生じると、発癌促進的に作用します。
代表的な遺伝子としては
p53
Rb
があります。どちらもすごい有名ですね。
まずp53ですが、その機能は非常に多岐に渡り、かなり強力な癌抑制効果を持っています。
が、残念ながらその全貌を僕も全然把握できていません。
おそらく受験生としても、それを把握しておく必要はないと僕は思います。こちらも問題文中のヒントで十分正答できるように出題されるべきでしょう。
Rbは、網膜芽細胞腫 Retinoblastoma の発生に深く関わる遺伝子として発見されました。歴史的に何より重要なのは、最初に発見された癌抑制遺伝子というところです。
そんなRbは基本的には細胞周期の抑制に働いていて、それがおかしくなると細胞がどんどん分裂しちゃう方向に傾くわけですね。
あと、癌抑制遺伝子で大切なのは、"two hit theory"なるものでございます。
これは、クヌードソン Knudson という方が提唱した理論で、Rb遺伝子でそれが証明されたのです。
この説は、ようは「癌抑制遺伝子は劣性なんですよ」ということで、対立遺伝子の両方にloss of function変異が生じる必要があるわけです。
遺伝的にRbの片方に変異を持っている児は、そうでない人に比べて網膜芽細胞腫の発症年齢が早い、という結果から導かれました。
(家族性腫瘍とは|家族性腫瘍(がん)相談室|外来案内|独立行政法人国立病院機構 四国がんセンター)
反対に、癌遺伝子はふつう「優性」の形質を持っています。なので、対立遺伝子の片方に変異が入るだけで癌化のスイッチが入ってしまいます。
そこの違いは押さえておきましょう。
とはいえ、p53など癌抑制遺伝子にも優性の性格を示すものがたくさんあり、そんなに単純な話でもないのです。
それについて、次回ちょっとだけお話します。この話は短めになると思うので、連チャンですぐにアップするようにしますね。
【医学部編入】生命科学講義・細胞の死と癌化② ~アポトーシスのメカニズム~
どうもこんにちは、タマころです。
前回講義ブログをアップしたのが4月1日... 二週間以上も空いてしまった!
このままでは編入シーズンまでに一周が終わらないよ...
いや、気を取り直して今日からまたやっていきます!(三日坊主説有力)
さて、前回はネクローシスとアポトーシスについて総論的にお話しましたが、今回はアポトーシスの2つの機序についてちょっと細かくやっていきます。
前回少し触れた通り、アポトーシスには
内因性経路 と 外因性経路
があります。
それぞれ一言でいうと、
内因性経路はミトコンドリアが関わる
といった感じでしょうかね。
このイメージを持ちながら以下読み進めていっていただければと思います。
わかりにくいとあれなので、先に図を出しときますね。
(http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_Key=09-02-02-21)
内因性経路
内因性経路は前述の通りミトコンドリアからスタートします。
種々の外的ストレスや細胞内部環境の異常によりアポトーシス開始シグナルが入ると、まずミトコンドリアからシトクロムcが放出されます。
放出されたシトクロムcはアダプタータンパク質と呼ばれるApaf-1という分子に結合して、その複合体がさらにカスパーゼ9に結合します。
それによってカスパーゼ9は活性化状態となり、さらにカスパーゼ3やカスパーゼ7を活性化します。
そして、最終的に彼ら(カスパーゼ3・7)がアポトーシスを実行します。
流れとしては以上なのですが、実はこの経路にはもう一つ重要な働きをもつ分子があります。
それは、ミトコンドリア膜に存在するBcl-2と呼ばれるタンパク質です。
Bcl-2は、ミトコンドリア外膜の透過性を低下させることでシトクロムcの放出を抑制し、それによってアポトーシスの誘導を抑制します。
だから、このタンパク質が機能不全になるとアポトーシスが起きやすくなるだろうし、
反対に異常に働くようになるとアポトーシスが起きづらくなります。
実際、ある種のリンパ腫でみられる染色体異常にIgH/Bcl-2のキメラ遺伝子の形成というのがあるのですが、これは免疫グロブリンの遺伝子とBcl-2の遺伝子がくっついちゃうことでBcl-2が過剰発現してしまいます(もともとリンパ球においてIgHはたくさん発現している)。
そうなることで、アポトーシスが抑えられ細胞が癌化しちゃうというわけですね。
これは余談ですが、僕がポリクリで血液内科をまわっているとき、上記のキメラ遺伝子の話が出て先生に
「Bcl-2ってわかりますか?」
と質問されたのですが、班員7人中僕以外の6人全員知りませんでした。
まあつまり言いたいことは、そんなに当たり前な知識じゃないよってことです。
正直編入の勉強してるとその辺マヒしてきます。受験生みんな詳しすぎ!
というわけで、このミトコンドリアから始まる内因性経路の流れ、押さえておきましょう。
外因性経路
こちらは、読んで字のごとく外からの刺激でアポトーシスが誘導されるわけですね。
それに関係するのが、Fasという膜貫通型タンパク質です。
これは細胞膜表面にあるレセプターです。
それで、Fasに外からリガンドがくっつくとスイッチが入ります。
そのリガンドの名前は、Fasリガンド(FasL)といいます。
このパターンって珍しくないですか?ふつうレセプターの方に「ホニャララレセプター(IL2レセプターとか)」っていう名前がつくのに、これは反対ですね。
さて、話は戻って、FasLが結合するとFasは3量体を形成して、その細胞質内に存在するdeath domain(名前ヤバい)というところにFADDというタンパク質が結合します。
FADDは、Fas-associated death domain proteinの略です。
それで、FADDはさらにカスパーゼ8と結合できるのですが、このFas、FADD、カスパーゼ8からなる巨大な複合体をDISCとかっこよく呼びます。
DISCは、death-inducing signal complexというらしいデス。
さっきから常に"death"が入ってますね。物騒デスね。
そして最終的に、DISC上で活性化したカスパーゼ8はカスパーゼ3・7を活性化して、以下内因性と同様にアポトーシスが実行されます。
...というわけで、以上2つの経路をしっかり理解・カスパーゼの数字の暗記をしておきましょう(数字は直前でもいい)。
このあたりは、どうしても穴埋め問題等で出題しやすいので狙われやすいです。
なので、流れと同時にそれぞれのタンパク質の名前も押さえながら勉強していくと良いかと思います。
それでは、また次回!