【医学部編入】生命科学講義・DNAの修復機構② ~二本鎖の損傷~
どうも、タマころです。
前回に引き続きDNAの修復機構ということで、本日は二本鎖の損傷について勉強しましょう。
まず前回も登場したこの図を確認。
この右側の「NHEJまたはHR修復」と書いてある方です。
略語だとわけわからんですよね。それぞれ
NHEJ:非相同末端結合
HR:相同組換え
といいます。
説明の順序としてはまず、より一般的であるだろうHRの方からします。
相同組換え(HR)
しくみ自体は減数分裂で起きるアレです。それが、DNA損傷の際に応用されるわけですね。
DNAのある部分が二本鎖とも損傷を受けると、それ単独では鋳型がなくなってしまうので、もう一つの染色体の同じ部分からDNAを拝借してくるのです。
そして、それを鋳型にDNAを合成しなおして正しく修復することができます。
(黒沢 綾 and 足立 典隆、2014、Isotope news)(一部改変)
事象としては上図の通りこの程度なのですが…
もしそれにかかわるタンパク質名などを答えさせるとなると、話はややこしくなってくるかと思われます。
しかし、ここではそこまで追っかけないことにします。まあ編入受験生で知ってる人ほとんどいないでしょうから。
ただ、その中でやたらピックアップされるワードが一つあります。これは覚えておいて損はないと思います。
それは…
ホリデー構造
というものです。
図の赤丸のDNAがクロスした部分の構造を指します。
僕は専門家ではないので残念ながらこの構造がなぜ重要なのかわかりませんが、とにかくHRについて調べるとよく見かける単語です。
…という感じで、次は非相同末端結合にいきます。
非相同末端結合(NHEJ)
かっこいい名前してますよね。僕ははじめてこの名前と略称を聞いたとき、そう思いましたもの。
ちなみにそのはじめて聞いたときというのは、僕がCRISPR/Cas9システムを使った実験をし始めたときです(この実験手法については次回紹介します)。
てかこの4文字、臨床で有名なジャーナルのNEJMと空見します(笑
さて、余談はこのくらいにして、この修復法のメカニズムの特徴は鋳型を用いずテキトーに直すというところにあります。
(黒沢 綾 and 足立 典隆、2014、Isotope news)
おそらく本当にランダムです。さらに、一塩基損傷を受けて一塩基ランダムに修復するならまだいいですが、数塩基の挿入や欠損が生じてしまうこともあります。
二本鎖の両方失われている状況は、実はそもそも何塩基の損傷を受けたかすらもわからなくなってしまうわけですね。
そうすると、たとえば数塩基の挿入が入ってしまうとフレームシフト変異が起きて正常なタンパク質が合成されなくなってしまったりします。
というリスクはあるものの、実際のヒト細胞では(高度は動物ほど)二本鎖損傷の際はNHEJの依存度の方が高いらしいです。
これにはさまざまな理由が考えられますが、一つに高等動物では反復配列が多いことが要因としてあるようで、反復配列で欠損が起きると正しく鋳型が取れなくて染色体の欠失や転座を引き起こしてしまう可能性があるとのことです。
たしかに、正確に修復できる可能性が高いけど、時に大事故を起こしうるなら、まあタンパク質いっこくらいしょうがないかっていう気持ちもわかりますね。
これら修復機構にかかわる因子の異常
HRにかかわる遺伝子に異常があると、家族性乳がんなど細胞の発がん率が高くなるということが分かっているようです。
ほかにも、ファンコーニ貧血といった先天性遺伝性疾患の原因となったりします。
NHEJではちょっと違って、こちらの遺伝子に異常があると主に免疫系に影響があり、重症複合型免疫不全(SCID)というのも招きます。
ちなみに、SCIDは「スキッド」と読みます。
というわけで、今日の話は以上になります。
一本鎖の損傷とあわせて、それら修復機構の種類と特徴を押さえていってもらえればいいかと思います。
次回は、本文中でも言及しましたがCRISPR/Cas9システムというゲノム編集技術について解説していきたいと思います。