再受験・学士編入で医学部を目指そう

20代後半、男。医師・獣医師。 医学部受験情報の発信や編入向けの生命科学の解説をしていきます。2018年3月31日より医学部編入受験生のためのウェブサイトMediTransを立ち上げましたhttps://www.meditrans.solutions

【医学部編入】生命科学講義・神経生理学⑤ ~興奮の伝達~

どうも、タマころです。

最近ブログの更新がんばれてます!


さて、今日は神経生理学のラストで興奮の伝達というテーマでやっていきますね。


まずはじめに、言葉の確認をしたいです。

伝達というワードなのですが、結構伝導と混同されている方が多いようです。


気を付けてください。


伝達は「ある神経細胞から次の神経細胞に興奮が伝わること」を指し、

対して伝導は「神経細胞内で活動電位が移動すること」を指します。


神経"伝達"物質 や 跳躍"伝導" といった風に、地味に使い分けられていますね。


では、本題に入っていきます。今日のポイントは3つ



神経伝達物質

基本は

アセチルコリン と ノルアドレナリン

ですね。

ただ、 交感神経=ノルアドレナリン という一対一対応は危険です。

というのも、交感神経でも節前と節後の間の伝達は
アセチルコリン
ですからね。


f:id:tamakoro1k:20170829010042j:plain
(一歩一歩学ぶ生命科学)

初めて知ったという方は、よく覚えておいてください!

ちなみに、交感神経節後繊維でもアセチルコリンを放ってしまう例外もあったりします(汗腺)。


めんどくさいですね。


と、さらにもう一つ注意点があります。

それは、上記二つ以外に神経伝達物質はいっぱいあるという事実です。

さっきまでの話は末梢神経に限ったことで、中枢神経系ではグリシンアスパラギン酸グルタミン酸といったアミノ酸類やセロトニンヒスタミンなど数多くの神経伝達物質が存在します。

編入試験でどこまで問われる可能性があるか判断が難しいところですが、アセチルコリンノルアドレナリンだけじゃないってことだけでも頭に入れてもらえればと思います!


シナプス後電位

今日の話のメインになります。

シナプス後電位...きっとこの単語を初めて聞いたという方もいるでしょう。

読んで字のごとく、「シナプスの後ろ側(情報を受け取る側)の神経細胞で発生する電位」のことを指します。


当然、シナプスの前側の軸索終末から神経伝達物質が放出されて、それによって後ろ側の神経細胞がシグナルを受けるのですが、もしただ興奮性の刺激を受けるだけだったらわざわざこんな用語持ち出す必要ないですよね?


逆を言えば、これは結構意味のあるワードなのです。


それはなにかというと、はやい話、抑制性のシグナルもあるということですね。


そこで、興奮性抑制性のシグナルをそれぞれ

興奮性シナプス後電位
excitatory post-synaptic potential(EPSP)

抑制性シナプス後電位
inhibitory post-synaptic potential(IPSP)

と呼びます。一般に英語の略語を多用するので、この英字4文字は是非覚えましょう。


それでじゃあ、それぞれどうやって興奮させたり抑制させたりしているかなんですが、これも結構単純で、シグナルを受けることで開口するチャネルの種類が違います

EPSPの場合はナトリウムチャネルです。なので当然脱分極します。これは普通ですね。

それでIPSPはというと、この場合はClチャネルが開きます。

Clイオンは細胞外のほうが濃度の高い陰イオンなので、ナトリウムと同じように細胞内に流入するのですが、こちらは反対に過分極を誘導します。


つまり...

Naチャネルが開いて脱分極する(膜電位が上がる)のがEPSP

Clチャネルが開いて過分極する(膜電位が下がる)のがIPSP

ということになります。


あとIPSPのポイントは、情報伝達物質の種類ですね。

代表例はγアミノ酪酸、通称GABAです。

チョコの製品の名前になってるあれです。他にもいくつかあるんですがこれだけでも覚えてください。


EPSPとIPSPの意義

結論を言えば、脳の活動性を制御していることになります。


中枢神経系では、無数の神経細胞同士がネットワークを形成していて、非常に複雑化した構造になっています。

それで、ある樹状突起(シナプスの後ろ側)に注目したとして、そこには複数の神経細胞シナプスを形成してシグナルを伝達させています。

そのときに、EPSPとIPSP同時に起こっているわけで、それらの総和によって樹状突起で発生する膜電位というのが決まっていきます

EPSP優位であれば、当然閾値に達しやすくなるでしょうし、反対にIPSPが優位だとなかなか活動電位は発生しません


これは人間の場合、思考や言動に現れてくるわけですね。

EPSP優位だと感情が激しくIPSP優位だと抑うつぎみになったりします。


実際に例えば、向精神薬の一種であるベンゾジアゼピン抗不安薬は、GABAA受容体に作用してClチャネルの開口頻度を増加させてIPSPを強めることで抗不安作用を示します。

ようは"落ち着く"わけですね。


覚えにくいということであれば、先ほども例示したチョコのGABAを思い出してください。
経口摂取で本当に効果があるかは未知数ですが、まあ編入受験生にとってはいい題材です。




というわけで、いかがだったでしょうか。

どうもこの単元は、高校生物で習う末梢神経での話が刷り込まれているせいかなかなか理解しづらい分野なのですが、この記事で少しでも理解のとっかかりになればいいなと思っています。


神経生理学はこれで以上になります。


編入試験もこれから終盤に差し掛かってきて、9月は連戦もありますが、体調にお気をつけて受験生の皆様には頑張っていただきたいと思います。