【医学部編入】生命科学講義・細胞の死と癌化④ ~ドミネガとハプロ不全・ラウス肉腫ウイルス~
どうもこんにちは、タマころです。
前回、癌抑制遺伝子の中には「優性の性格を持つもの」も存在する、というところで終わりました。
(前提として、癌抑制遺伝子は普通、対立遺伝子の両方に変異が生じてはじめて癌促進的に作用するんでしたね)
それには異なる2つのメカニズムがあります。
それがタイトルにも書いてある
ドミナントネガティブ
ハプロ不全
です。それぞれ簡単に説明すると、
ドミナントネガティブ・・・対立遺伝子の片方に変異が生じた際に、その変異産物が正常産物に対して優性に働いて、正常な機能を阻害する現象のこと。二量体以上の多量体を形成するタンパク質でみられる。
ハプロ不全・・・正常遺伝子一つから翻訳されるタンパク量では正常に機能するには不十分で、変異型とのヘテロ接合体となることでその遺伝子の機能が正常に働かなくなる現象のこと。
人によって説明の仕方に若干の違いはあるかもしれませんが、概ねこういうことでしょう。
ドミナントネガティブは有名だと思いますが、例えば四量体を形成するタンパク質の場合、片方の遺伝子に変異が生じるとすべて正常の遺伝子産物で構成される確率が1/2×1/2×1/2×1/2=1/16 にまで低下してしまうのですね。
その結果、片方の変異で機能不全となり、優性の形質を示します。
ハプロ不全は、英語ではhaploinsufficiencyといって、"haplo-"は「単一の」という意味の接頭語で、"insufficiency"は「不十分」です。
なので、ハプロ不全とは要するに「単一では不十分」という意味です。その結果、こちらも優性になります。
普通はですね、遺伝子産物というのは十分すぎる量発現するのが世の常でして、ハプロ不全を示す遺伝子というのはそこそこレアなんですよ。
その例としては、英語版wikiにいくつか挙げられていたので、スクショを貼り付けておきます。
(https://en.m.wikipedia.org/wiki/Haploinsufficiency)
ということで、以上ドミナントネガティブとハプロ不全についてでした。
はい、ここからはオマケみたいなものなのですが、癌遺伝子つながりで「ラウス肉腫ウイルス」というものを少しだけご紹介いたします。
まあなかなかマイナーなウイルスなので、その存在だけでも知っていただければ十分です。とはいえ、このウイルスの発見者はノーベル賞を取っています。
まずイントロですが、ラウス肉腫ウイルスは、1911年にペイトン・ラウス氏によってニワトリに肉腫を生じさせる濾過性病原体として発見され、世界で最初に見つかった「がんウイルス」です。
ちなみに、最初に発見されたヒトがんウイルスは Epstein-Barr virus 通称EBウイルスです。
さて、ラウス肉腫ウイルスはHIVも属する「レトロウイルス」の一種なわけですが、このウイルスはなぜニワトリに肉腫を引き起こすのでしょうか?
研究の結果、ラウス肉腫ウイルスは癌化を強く誘導する遺伝子を持っていることが分かりました。
そして、それをsrcと名付けたのです(肉腫sarcomaに由来)。そうです、前回も名前だけ登場した癌遺伝子のsrcです!(ちなみに読み方は「サーク」)
実は、今では癌遺伝子の一つとして有名はsrcは、最初はウイルス遺伝子として発見されてのちに宿主のゲノムにも存在していることが判明したわけです。
今日では、ウイルス由来のsrcをv-src、宿主細胞側のsrcをc-srcと区別して呼んでいます。
という感じで、がんの話は以上で終わります。今回の単元は④までいっちゃいましたね、長くなってしまいました。
それでは、次回からは「シグナル伝達」について勉強していく予定です。